ホンダ・2026年3月期通期、営業損失4,143億円に転落——EV戦略見直しに伴う1.4兆円の巨額損失計上が直撃
売上高
21.8兆円
+0.5%
通期予想
23.1兆円
営業利益
-414,346百万円
通期予想
5,000億円
純利益
-423,941百万円
通期予想
2,600億円
営業利益率
-1.9%
本田技研工業(ホンダ)が14日に発表した2026年3月期の連結決算(IFRS)は、営業損益が 4,143億円の赤字(前期は1兆2,134億円の黒字)へと転落しました。北米でのEV補助金見直しや中国市場の競争激化を受け、EV関連モデルの上市・開発中止や戦略見直しに伴う約1兆4,500億円の巨額損失を計上したことが主因です。一方で売上収益は二輪事業の伸長により 21兆7,966億円(前年比 +0.5%)と微増を確保し、屋台骨である二輪事業が四輪部門の苦境を支える構図が鮮明となりました。
業績のポイント
当期の業績は、売上収益が 21兆7,966億円(前年比 +0.5%)と過去最高水準を維持したものの、本業の儲けを示す営業利益は 4,143億円の赤字(前年は 1兆2,134億円の黒字)となりました。最終的な親会社の所有者に帰属する当期損益も 4,239億円の赤字(前年は 8,358億円の黒字)に沈んでいます。
この大幅な減益の背景には、EV(電気自動車)を取り巻く世界的な環境変化があります。米国におけるEV補助金制度の変更や排出規制の緩和、さらには中国メーカーの台頭による競争激化を受け、ホンダは EV投入計画の抜本的な見直し を決断しました。これに伴い、開発中止となったモデルの減損損失や、特定のアライアンス契約に関する引当金など、合計で 1兆4,536億円 もの「EV関連損失」を一括計上したことが利益を大きく押し下げました。
| 指標 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 21兆6,887億円 | 21兆7,966億円 | +0.5% |
| 営業利益 | 1兆2,134億円 | △4,143億円 | — |
| 税引前利益 | 1兆3,176億円 | △4,033億円 | — |
| 当期利益 | 8,358億円 | △4,239億円 | — |
業績推移(通期)
セグメント別動向
四輪事業がEV戦略の修正で巨額赤字を露呈した一方、二輪事業は驚異的な収益力を維持し、グループ全体の経営を下支えしました。
二輪事業は、売上収益が 4兆188億円(前年比 +10.8%)、営業利益は 7,319億円(前年比 +10.3%)と増収増益を達成しました。アジアを中心とした堅調な需要に加え、適切な価格転嫁とコストダウンが奏功しています。営業利益率は 18.2% という極めて高い水準を維持しており、世界トップシェアの底力を見せつけました。
四輪事業は、売上収益が 14兆1,669億円(前年比 △2.1%)となり、営業損益は 1兆4,111億円の赤字(前年は2,438億円の黒字)を計上しました。先述の1.4兆円規模のEV関連損失がこのセグメントに集中したことが最大の要因です。戦略面では、北米での共同開発EVの生産終了や中国での販売不振が響き、収益構造の立て直しが急務となっています。
金融サービス事業は、売上収益が 3兆5,327億円(前年比 +0.6%)と堅調でしたが、営業利益は 2,755億円(前年比 △12.7%)の減益となりました。金利環境の変化や、中古車価格の下落に伴うリース車両の残価評価への影響などが重荷となりました。
| セグメント | 売上収益 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 4兆188億円 | +10.8% | 7,319億円 | +10.3% |
| 四輪事業 | 14兆1,669億円 | △2.1% | △1兆4,111億円 | — |
| 金融サービス | 3兆5,327億円 | +0.6% | 2,755億円 | △12.7% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 4.0兆円 | 18% | 7,319億円 | 18.2% |
| 四輪事業 | 14.2兆円 | 65% | -1,411,140百万円 | -10.0% |
| 金融サービス事業 | 3.5兆円 | 16% | 2,755億円 | 7.8% |
財務状況と資本政策
総資産は前期末比で2兆7,334億円増加し、33兆5,092億円 となりました。これはオペレーティング・リース資産の増加や、円安に伴う外貨建て資産の換算額上昇が主な要因です。一方で、親会社の所有者に帰属する持分(自己資本)は、当期損失の計上や自己株買いの実施により、11兆8,175億円(前期比5,090億円減)に減少しました。
キャッシュ・フロー面では、営業活動によるキャッシュ・フローが 1兆1,352億円の収入 となり、前期の2,921億円から大幅に改善しました。これは金融サービス債権の回収増加などが寄与したものです。投資活動では有形固定資産の取得などで 8,521億円の支出 を行っています。
株主還元については、厳しい決算内容ながらも、年間配当を前期の68円から2円増配の 70円 としました。巨額損失は戦略見直しに伴う「一過性の会計処理」という側面が強く、株主への還元姿勢を維持する 経営判断を下した形です。ただし、2027年3月期の予想配当性向は 104.8% に達する見込みであり、利益成長の回復が前提となります。
通期見通し
2027年3月期は、EV関連損失の一巡により V字回復を見込んでいます。売上収益は 23兆1,500億円(前年比 +6.2%)、営業利益は 5,000億円 の黒字転換を計画しています。想定為替レートは1ドル= 145円 と設定されました。
利益改善の要因として、前期に計上したEV関連損失 1兆4,536億円 がなくなることが最大の上押し要因となります。一方で、新たなEV戦略に基づく開発費の増大や、北米・中国市場での競争激化による販売奨励金の増加など、約3,130億円の「売価およびコスト影響」のマイナス要因も織り込んでいます。今後は、二輪で稼いだ利益をいかに効率的に四輪の電動化再構築へ振り向けられるかが焦点となります。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 21兆7,966億円 | 23兆1,500億円 | +6.2% |
| 営業利益 | △4,143億円 | 5,000億円 | — |
| 当期利益 | △4,239億円 | 2,600億円 | — |
リスクと課題
ホンダが直面する最大の経営リスクは、世界的な 「EVシフトの不確実性」 です。同社が挙げた主な課題は以下の通りです。
- 中国市場の苦境: 現地メーカーによる急速なEV・PHVの普及と価格競争により、合弁事業を含む中国ビジネスの収益性が著しく低下しています。
- 北米の政策動向: 米国大統領選など政治環境の変化により、EV補助金や排出規制の緩和が進む可能性があり、巨額の設備投資を回収できないリスクを抱えています。
- 品質問題の再発防止: 過去のエアバッグ問題に加え、将来のソフトウェア定義車両(SDV)において開発の遅れや不具合が発生する懸念があります。
- 為替変動リスク: 海外売上比率が高いため、想定レート(145円)を上回る円高が進行した場合、業績の下振れ要因となります。
今回のホンダの決算は、まさに「膿を出し切る」ための決断を下した内容と言えます。1.4兆円を超える巨額損失は衝撃的ですが、市場環境の急変に合わせて過去の投資計画をサンクコスト(埋没費用)として処理し、身軽になった状態で次世代戦略に挑む姿勢を示しています。
特筆すべきは、二輪事業の収益性の高さです。営業利益率18%超というのは、競合他社を圧倒する「稼ぐ力」であり、このキャッシュ・カウが存在するからこそ、四輪事業の大胆なリストラが可能になっています。投資家にとっては、赤字転落そのものよりも、来期以降の5,000億円という営業利益予想がどれだけ確実性を持って達成できるか、特に競争が激化する中国市場での「撤退か存続か」の判断が今後の注目ポイントとなるでしょう。
