東京電力HD・2026年3月期Q3、純損失6626億円——福島第一廃炉費用の見積り変更で巨額の特別損失を計上
売上高
4.6兆円
-7.1%
通期予想
6.5兆円
営業利益
2,584億円
-16.9%
純利益
-662,652百万円
通期予想
-641,000百万円
営業利益率
5.6%
東京電力ホールディングスが発表した2026年3月期第3四半期決算は、売上高が前年同期比 7.1%減 の 4兆6,121億円 、最終損益が 6,626億円の赤字 (前年同期は2,431億円の黒字)に転落しました。燃料デブリ取り出しに向けた準備工程の見直しに伴い、約 9,030億円の災害特別損失 を計上したことが主因です。電力小売りなどの本業は堅調を維持しているものの、廃炉コストの不透明さが改めて浮き彫りとなった形です。
業績のポイント
当第3四半期の連結業績は、売上高が 4兆6,121億円 (前年同期比 7.1%減 )、営業利益が 2,584億円 (同 16.9%減 )となりました。売上高の減少は、燃料価格の下落に伴う燃料費調整制度による単価の下落や、国の電気料金負担軽減策による値引き影響が主な要因です。経常利益については、燃料価格の安定や持分法による投資損益の改善により、前年同期並みの 3,475億円 を確保しました。
しかし、親会社株主に帰属する四半期純損益は 6,626億円の赤字 となりました。これは福島第一原子力発電所の廃炉に向けて、燃料デブリ取り出しの工法や準備工程を精緻化した結果、将来見込まれる作業費用等として 9,056億円 の災害特別損失を計上したためです。本業の稼ぐ力は回復基調にあるものの、廃炉という長期的かつ膨大な不確定リスク が財務を圧迫する構図が続いています。
| 項目 | 2025年3月期 Q3 | 2026年3月期 Q3 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4兆9,633億円 | 4兆6,121億円 | △7.1% |
| 営業利益 | 3,110億円 | 2,584億円 | △16.9% |
| 経常利益 | 3,487億円 | 3,475億円 | △0.3% |
| 四半期純利益 | 2,431億円 | △6,626億円 | — |
業績推移(通期)
セグメント別動向
送配電を担うパワーグリッド事業は、売上高 1兆6,770億円 、セグメント利益 1,241億円 を計上しました。エリア外への供給増加や効率的な系統運用により安定した収益を維持していますが、修繕費の増加などが利益を押し下げる要因となっています。託送料金制度を通じた収益の安定化を図りつつ、デジタル化によるコスト抑制を進めています。
小売事業のエナジーパートナーは、売上高 3兆6,784億円 、セグメント利益 1,386億円 となりました。燃料価格の下落により販売価格は低下したものの、市場調達価格の安定によってマージンが確保され、グループ全体の収益を支える柱となっています。一方で、他社との競争激化や節電意識の定着により、販売電力量自体は減少傾向にあることが課題です。
| セグメント | 売上高 | セグメント利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|
| ホールディングス | 4,876億円 | 1,194億円 | 24.5% |
| パワーグリッド | 1兆6,770億円 | 1,241億円 | 7.4% |
| エナジーパートナー | 3兆6,784億円 | 1,386億円 | 3.8% |
| リニューアブルパワー | 1,517億円 | 459億円 | 30.2% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| ホールディングス | 4,876億円 | 11% | 1,195億円 | 24.5% |
| パワーグリッド | 1.7兆円 | 36% | 1,241億円 | 7.4% |
| エナジーパートナー | 3.7兆円 | 80% | 1,386億円 | 3.8% |
| リニューアブルパワー | 1,518億円 | 3% | 459億円 | 30.3% |
財務状況と資本政策
総資産は前期末比で微増の 14兆9,984億円 となりましたが、巨額の純損失計上により、自己資本比率は前期末の25.1%から 20.6% へと低下しました。これは廃炉関連の引当金積み増しが負債を押し上げ、利益剰余金が減少したためです。財務基盤の健全化 は喫緊の課題であり、保有資産の売却による資金捻出を加速させています。
具体策として、連結子会社の東電パワーグリッドが保有する持分法適用関連会社、株式会社関電工の株式を一部売却 することを決定しました。これにより、当連結会計年度において約 110億円 の関係会社株式売却益を特別利益として計上する見込みです。資産の効率化を進める一方、普通株式の配当については「0円」の無配を継続し、福島復興に向けた賠償・廃炉資金の確保を最優先とする方針を堅持しています。
通期見通し
2026年3月期の通期業績予想は、売上高 6兆4,620億円 、経常利益 2,770億円 としています。燃料価格の動向や電力需要の変動を注視しつつ、現時点では1月29日発表の数値を据え置いています。最終損益については、今回の巨額特損計上を反映し、6,410億円の赤字 を見込んでいます。期初の黒字予想から一転して巨額赤字となる見通しですが、本業でのコスト削減を徹底し、キャッシュフローの確保に努めるとしています。
| 項目 | 前回予想 | 今回修正(据置) | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 6兆4,620億円 | 6兆4,620億円 | 6兆8,118億円 |
| 経常利益 | 2,770億円 | 2,770億円 | 4,461億円 |
| 当期純利益 | △6,410億円 | △6,410億円 | 2,679億円 |
リスクと課題
今後の経営における最大のリスクは、依然として福島第一原発の廃炉プロセスの進捗です。今回のように技術的検討が進むたびに見積り費用が増加する可能性があり、長期的な財務負担の予見性 が低いことが投資家の懸念材料となっています。また、外部環境のリスクとして以下の点に言及しています。
- ALPS処理水放出の影響: 外国政府による輸入停止措置等に伴う風評被害や賠償費用の増大。
- エネルギー価格の変動: 地政学リスクに伴う燃料価格の再騰騰による、逆ざや発生や卸電力市場価格の上昇。
- 原子力規制の動向: 柏崎刈羽原子力発電所の再稼働時期が遅延することによる、代替火力コストの負担継続。
今回の決算で最も注目すべきは、本業の経常利益(3,475億円)が堅調であるにもかかわらず、廃炉という「負の遺産」がそれを遥かに上回る規模で財務を侵食している現実です。特筆すべき点は以下の通りです。
- 見積りの精度向上とリスク: 9,030億円の特損は、技術的な裏付けができたことによる「前向きな精緻化」とも取れますが、今後も同様の見直しが発生する可能性を否定できません。就活生にとっては、安定したインフラ企業という側面以上に、国家規模の困難なプロジェクトを背負う特殊な企業体であることを理解する必要があります。
- 資本政策の限界: 関電工株の売却など、なりふり構わぬ資金捻出を行っていますが、配当再開への道のりは依然として遠いです。投資家視点では、柏崎刈羽原発の再稼働による抜本的な収益改善が実現しない限り、評価の転換は難しいでしょう。
- セグメント利益の源泉: 補助金(電気料金負担軽減策)の会計処理など、定性的な情報にも複雑な背景があります。見かけの売上減に惑わされず、燃料価格との相関を見る必要があります。
