東京ガス・2026年3月期、純利益3.1倍の2,268億円——海外事業の躍進と資産売却が寄与、120円へ増配予想
売上高
2.8兆円
+7.5%
通期予想
2.9兆円
営業利益
1,977億円
+48.5%
通期予想
1,860億円
純利益
2,269億円
+205.8%
通期予想
1,370億円
営業利益率
7.0%
東京ガスが28日に発表した2026年3月期連結決算は、親会社株主に帰属する当期純利益が前期比 205.8%増 の 2,268億円 と大幅な増益を記録した。北米シェールガス事業の収益改善に加え、経営資源の最適化に伴う固定資産の売却益などが利益を大きく押し上げた。同社は株主還元を一段と強化し、次期の年間配当を10円増の 120円 とする方針を示している。
東京瓦斯 2026年3月期 通期決算
さくら × けんじ の対話形式解説
業績のポイント
2026年3月期の連結業績は、売上高が前期比 7.5%増 の 2兆8,347億円、営業利益が同 48.5%増 の 1,976億円 と増収増益で着地した。売上高については、都市ガスの原料費調整制度に伴う単価下落があったものの、電力販売量の増加がそれを補った。利益面では、海外事業の採算向上に加え、国内のネットワーク部門が低気温によるガス託送量の増加で黒字化したことが寄与した。
特筆すべきは、純利益が前期の 741億円 から 2,268億円 へと急拡大した点である。これは営業利益の成長に加え、特別利益として固定資産売却益 487億円や為替換算調整勘定取崩益 680億円を計上したことが主因だ。一方で、将来の収益性を見直した結果、301億円 の減損損失を計上するなど、事業ポートフォリオの整理を加速させている。
| 項目 | 2025年3月期実績 | 2026年3月期実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆6,368億円 | 2兆8,347億円 | +7.5% |
| 営業利益 | 1,330億円 | 1,976億円 | +48.5% |
| 経常利益 | 1,135億円 | 1,937億円 | +70.5% |
| 当期純利益 | 741億円 | 2,268億円 | +205.8% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力のエネルギ―・ソリューションセグメントは、売上高 2兆4,861億円(前期比+6.2%)、セグメント利益 1,502億円(同+23.5%)となった。電力事業において小売件数の増加や卸市場での販売が堅調に推移し、電源調達コストの増加を吸収した。ガス販売量は、工業用や他事業者向けの需要が減退し全体で 0.4%減 となったが、家庭用は低気温の影響で 2.1%増 と底堅く推移している。
海外セグメントは、今決算の成長エンジンとなった。セグメント利益は前期比 223.1%増(約3.2倍)の 738億円 に達した。北米におけるシェールガス事業での販売単価上昇が利益を大きく押し上げ、グループ全体の収益基盤として存在感を高めている。ネットワークセグメントも、ガス託送量の増加によりセグメント利益 41億円(前期は31億円の損失)と黒字転換を果たした。
都市ビジネスセグメントは、売上高 734億円(前期比△5.6%)、セグメント利益 97億円(同△59.6%)と苦戦した。これは、保有する「パークハイアット東京」の大規模リニューアルに伴う休館や諸経費の増加が一時的な重石となったためだ。不動産開発事業そのものは着実な進捗を見せている。
| セグメント名 | 売上高 | セグメント利益 | 利益前年比 |
|---|---|---|---|
| エネルギー・ソリューション | 24,861億円 | 1,502億円 | +23.5% |
| ネットワーク | 3,344億円 | 41億円 | 黒字転換 |
| 海外 | 2,414億円 | 738億円 | +223.1% |
| 都市ビジネス | 734億円 | 97億円 | △59.6% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー・ソリューション | 2.5兆円 | 88% | 1,502億円 | 6.0% |
| 海外 | 2,415億円 | 9% | 738億円 | 30.6% |
| ネットワーク | 3,344億円 | 12% | 41億円 | 1.2% |
| 都市ビジネス | 734億円 | 3% | 97億円 | 13.3% |
財務状況と資本政策
総資産は前期末比で 372億円 増加し、3兆8,922億円 となった。投資有価証券の増加が主な要因である。一方で、純利益の積み上がりがあったものの、剰余金の配当や積極的な自己株式取得により、純資産は 1兆7,965億円 と微減した。自己資本比率は 44.1%(前期末比0.7ポイント低下)を維持しており、健全な財務基盤を保っている。
株主還元の強化を鮮明に打ち出している。2026年3月期の年間配当は前期から 30円増配 の 110円(中間50円・期末60円)とした。さらに、取締役会において、発行済株式総数の 3.6% に相当する 1,200万株、総額 500億円 を上限とする自己株式の取得を決定した。成長投資と株主還元のバランスを重視する「Compass 2030」の戦略を反映した形だ。
通期見通し
2027年3月期の連結業績予想は、売上高 2兆9,470億円(前期比+4.0%)、営業利益 1,860億円(同△5.9%)、純利益 1,370億円(同△39.6%)を見込む。増収ながらも減益となる見通しだが、これは前期に計上された一過性の資産売却益がなくなることや、原油価格の上昇に伴う原材料費の増加を織り込んだものである。
配当については、累進配当の方針に基づき、前期からさらに 10円増配 の年間 120円 を予定している。想定為替レートは1ドル=155円、原油価格は1バレル=85ドルと、足元の環境を慎重に反映した前提となっている。国内のガス・電力需要の効率化と、海外事業の安定収益化が引き続き焦点となる。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 修正率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆8,347億円 | 2兆9,470億円 | +4.0% |
| 営業利益 | 1,976億円 | 1,860億円 | △5.9% |
| 当期純利益 | 2,268億円 | 1,370億円 | △39.6% |
リスクと課題
東京ガスが注視する主なリスクは以下の通り。特に外部環境の変動による原料調達コストへの影響を警戒している。
- エネルギー価格の変動: 原油価格やLNG(液化天然ガス)価格の急騰は、原料費調整制度での回収までのタイムラグにより、短期的にはキャッシュフローを圧迫する要因となる。
- 地政学リスク: 中東情勢の緊迫化に伴うホルムズ海峡の封鎖リスク等は、LNGの安定調達に直結する。現時点で直接的な影響はないとしているが、調達先の多様化が急務となっている。
- 為替変動: 円安の進行は原料輸入コストの上昇を招く。同社は1円の円安で営業利益が数十億円規模で変動する感応度を持っており、為替相場の注視が必要である。
- 脱炭素化の加速: 環境規制の強化に伴い、化石燃料であるガスの需要減退リスクがある。水素やメタネーションなどの次世代エネルギー投資への成否が長期的な存続を左右する。
今回の決算で最も注目すべきは、東京ガスの「収益構造の変革」が数字に表れ始めた点です。
- 海外事業の利益貢献: セグメント利益の約37%を海外事業が稼ぎ出しており、もはや「日本のガス会社」という枠を超えたエネルギー投資会社としての側面が強まっています。北米のガス価格上昇がダイレクトに寄与する体質になっています。
- 「持たない経営」へのシフト: 500億円規模の固定資産売却や為替勘定の取り崩しによる利益捻出は、ROIC(投下資本利益率)を意識した経営管理の導入と整合しています。不要な資産を切り離し、成長分野(再エネや海外)へ再投資する姿勢が明確です。
- 株主還元の積極性: 純利益が大幅増となったタイミングで30円もの増配と、500億円の自社株買いをセットで発表したことは、投資家から高く評価されるでしょう。累進配当を掲げている点は、長期保有を検討する投資家にとって安心材料となります。
懸念点は、27年3月期の減益予想に見られる通り、一過性利益を除いた「実力値」での利益成長をいかに継続できるかです。国内のガス販売量が頭打ちとなる中で、電力事業のシェア拡大と海外ポートフォリオの安定性が今後の株価を左右すると見ています。
