東ソー・2026年3月期Q3、純利益49.2%減の246億円——米国事業の減損と市況悪化が重石、水処理は堅調
売上高
7,561億円
-5.0%
通期予想
1.0兆円
営業利益
699億円
-6.3%
通期予想
900億円
純利益
246億円
-49.2%
通期予想
300億円
営業利益率
9.2%
総合化学大手の東ソーが発表した2026年3月期第3四半期(4〜12月)連結決算は、売上高が前年同期比 5.0%減 の 7,561億円、純利益が同 49.2%減 の 246億円 と大幅な減益となりました。ナフサ価格の下落に伴う製品価格の低下や、南陽事業所の定期修繕による生産減、さらには米国子会社での 巨額の減損損失計上 が利益を大きく押し下げました。一方で、半導体向け水処理エンジニアリング事業は拡大を続けており、事業ポートフォリオの明暗が分かれる結果となっています。

業績のポイント
当第3四半期の累計業績は、世界的なインフレの落ち着きが見られる一方で、米国の関税政策や中国経済の減速といった不透明感に翻弄される形となりました。売上高は前年同期の 7,957億円 から 7,561億円(前年同期比△5.0%) へと減少しました。これは主力の石油化学製品や苛性ソーダなどの海外市況が下落したことに加え、南陽事業所における大規模な定期修繕の影響で出荷数量が落ち込んだことが主因です。
利益面では、営業利益が 699億円(前年同期比△6.3%)、経常利益が 770億円(前年同期比△6.7%) となりました。燃料価格の下落によるコスト改善(交易条件の改善)はあったものの、在庫受払差の悪化や固定費の増加 がそのメリットを打ち消しました。特に深刻なのは最終利益で、米国でスパッタリングターゲット事業を担う連結子会社「トーソー・SMD」において、将来の収益性低下を見越した 192億円 の 減損損失を計上 したことが、前年比ほぼ半減という大幅減益の引き金となりました。
業績推移(通期)
セグメント別動向
各セグメントの状況を見ると、素材関連の苦戦とエンジニアリングの躍進が対照的です。
石油化学事業は、売上高 1,330億円(前年同期比△16.4%)、営業利益 81億円(前年同期比△34.7%) となりました。ナフサ価格の下落に連動してエチレンやポリエチレンの販売価格が低下したほか、コンビナート内での需要減退により出荷が伸び悩みました。クロル・アルカリ事業は、売上高 2,538億円(前年同期比△9.0%) に対し、営業利益はわずか 1億円(前年同期比△98.7%) と、ほぼ損益分岐点まで悪化しました。南陽事業所の定期修繕に伴う生産減が響いたほか、主力の苛性ソーダやMDI(ウレタン原料)の海外市況が低迷したことが直撃しました。
対照的に、エンジニアリング事業は売上高 1,328億円(前年同期比+10.7%)、営業利益 278億円(前年同期比+30.1%) と唯一の稼ぎ頭となりました。台湾や米国、日本国内において 先端半導体関連の大型水処理案件 が順調に進捗したことが寄与しています。機能商品事業は売上高 2,026億円(前年同期比△0.3%)、営業利益 311億円(前年同期比△0.4%) と横ばいでした。半導体向け石英ガラスは回復傾向にあるものの、中国での診断用医薬品の出荷減少などが相殺しました。
| セグメント名 | 売上高 (億円) | 営業利益 (億円) | 前年同期比 (利益) |
|---|---|---|---|
| 石油化学 | 1,330 | 81 | △34.7% |
| クロル・アルカリ | 2,538 | 1 | △98.7% |
| 機能商品 | 2,026 | 311 | △0.4% |
| エンジニアリング | 1,328 | 278 | +30.1% |
| その他 | 338 | 28 | +24.0% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 石油化学 | 1,330億円 | 18% | 81億円 | 6.1% |
| クロル・アルカリ | 2,538億円 | 34% | 96百万円 | 0.0% |
| 機能商品 | 2,026億円 | 27% | 311億円 | 15.4% |
| エンジニアリング | 1,328億円 | 18% | 278億円 | 20.9% |
財務状況と資本政策
2025年12月末時点の総資産は、前期末比170億円増の 1兆3,443億円 となりました。棚卸資産(仕掛品)や投資有価証券が増加した一方、現金及び預金は減少しています。自己資本比率は前期末の 62.3% から 59.8% へと微減しましたが、依然として財務の健全性は高い水準を維持しています。
株主還元については、中間配当 50円 に続き、期末配当予想も 50円 を据え置き、年間で 100円 を予定しています。注目すべきは、機動的な資本政策の一環として実施している 自己株式の取得 です。当第3四半期累計期間において 187億円 分の自己株買いを実施しており、利益が減少する局面においても株主への還元姿勢を維持し、1株当たり価値の向上を図る経営判断が示されています。キャッシュフロー面では、営業CFが前年同期より改善し 790億円の収入 となった一方、設備投資等の投資CFで 580億円を支出 しています。
通期見通しと戦略トピック
東ソーは同日、2026年3月期の通期業績予想を 下方修正 しました。前回予想に比べ、営業利益を130億円、純利益を80億円引き下げています。これは、クロル・アルカリ事業や石油化学事業における製品市況の回復が想定よりも遅れていることや、在庫受払差による利益押し下げ影響を精査した結果です。
| 項目 | 前回予想 | 今回修正 | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆200億円 | 1兆100億円 | 1兆634億円 |
| 営業利益 | 1,030億円 | 900億円 | 989億円 |
| 親会社純利益 | 380億円 | 300億円 | 580億円 |
今後の焦点は、現在進行中の中期経営計画における「事業ポートフォリオの変革」です。市況に左右されやすい「基礎素材」依存からの脱却を目指し、利益率の高い「先端事業(ライフサイエンス、水処理、高機能材料)」への投資を加速させています。今回の決算でも、素材部門が市況悪化で沈む中、水処理エンジニアリングが利益を支える構図が鮮明となり、高付加価値化戦略の重要性 が改めて浮き彫りとなりました。
リスクと課題
同社が直面する主なリスクは以下の通りです。
- 市況変動リスク: ナフサ価格や苛性ソーダ、MDIなどの国際市況が、中国の景気動向や各国の関税政策により不安定化しています。
- 地政学リスク: 米国の関税政策が製造業に与える影響や、中東情勢による物流・原材料コストの上昇懸念が継続しています。
- 先端分野の競争激化: 水処理やライフサイエンス分野は成長市場である一方、競合他社との技術開発競争が激しく、継続的なR&D投資が必要です。
- 減損リスクの再燃: 今回米国子会社で減損を計上しましたが、海外事業の収益性が改善しない場合、さらなる会計上の評価損が発生する可能性があります。
東ソーの今期決算は、まさに「素材の苦境」と「先端の躍進」が交差する内容でした。特筆すべきは営業利益のセグメント構成で、売上規模で勝るクロル・アルカリがほぼ利益ゼロに沈む中、エンジニアリングが石油化学の3倍以上の利益を叩き出しています。
投資家としては、米国事業の減損という「膿」を出したことで、来期以降のV字回復に向けた基盤が整ったかどうかが注目点です。就活生にとっては、同社が単なる「塩と石炭の会社」から、半導体インフラを支える「高機能グリーンケミカル企業」へ脱皮しようとしている過渡期にあることを理解するのが重要です。
懸念点としては、やはり中国経済への感応度が高い素材部門の立て直しです。水処理という強力な成長エンジンを持ちつつも、伝統的な素材事業が利益の足を引っ張る「コングロマリット・ディスカウント」をどう解消していくかが、今後の株価と経営の焦点になるでしょう。
