旭化成・2026年3月期、営業利益9.1%増の2,312億円——医薬・住宅が牽引、構造改革で成長領域へ集中
売上高
3.1兆円
+1.2%
通期予想
3.3兆円
営業利益
2,312億円
+9.1%
通期予想
2,480億円
純利益
1,588億円
+17.6%
通期予想
1,600億円
営業利益率
7.5%
旭化成が発表した2026年3月期決算は、売上高が前期比1.2%増の3兆745億円、営業利益が同9.1%増の2,312億円と増収増益を確保しました。北米の住宅需要減退や素材事業での定期修理といった押し下げ要因はあったものの、買収効果による医薬事業の躍進と国内住宅事業の堅調さが業績を支えました。同社は現在、血液浄化事業やセパレータ事業の譲渡など、「ベストオーナー」の観点から大規模な事業ポートフォリオの転換を加速させており、収益性の向上と成長分野へのリソース集中を鮮明にしています。
業績のポイント
当期の連結業績は、売上高が3兆745億円(前年比+1.2%)、営業利益が2,312億円(同+9.1%)となりました。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、持分法投資利益の改善や税金費用の減少により、前期比17.6%増の1,588億円に達しました。
増益の主要因は「ヘルスケア」セグメントの好調です。2024年に買収したスウェーデンの製薬会社Calliditas社の新規連結効果に加え、主力の医薬製品の販売増が大きく寄与しました。一方、「マテリアル」セグメントはAIサーバー向け半導体材料が伸長したものの、石油化学事業での大規模な定期修理や棚卸資産の影響で苦戦し、グループ全体では「医薬・住宅が素材の不振を補う」構図となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 前期比 | 27年3月期予想 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3兆373億円 | 3兆745億円 | +1.2% | 3兆2,540億円 |
| 営業利益 | 2,119億円 | 2,312億円 | +9.1% | 2,480億円 |
| 経常利益 | 1,935億円 | 2,304億円 | +19.1% | 2,475億円 |
| 純利益 | 1,350億円 | 1,588億円 | +17.6% | 1,600億円 |
業績推移(通期)
セグメント別動向
セグメント別の状況では、ヘルスケアが利益を大きく伸ばす一方で、マテリアルが減益となる明暗が分かれました。
ヘルスケアは、売上高が6,641億円(前年比+7.8%)、営業利益は835億円(同+30.3%)と躍進しました。医薬事業において主力製品の販売が拡大したほか、新規連結したCalliditas社の寄与が利益を押し上げました。クリティカルケア事業でも除細動器の新製品上市が効果を発揮しましたが、先行投資としての販管費増加が一部利益を圧迫しました。
住宅は、売上高が1兆774億円(前年比+4.0%)、営業利益が998億円(同+4.1%)となりました。国内の建築請負事業において物件の大型化や高付加価値化による単価上昇が進んだほか、賃貸管理や不動産流通も堅調に推移しました。一方で、海外住宅事業(北米)は金利上昇に伴う需要停滞の影響を受け、数量減少による減益を余儀なくされました。
マテリアルは、売上高が1兆3,062億円(前年比-4.6%)、営業利益が683億円(同-14.5%)と振るいませんでした。AIサーバーやハイエンドスマホ向けの半導体材料・電子機器関連は旺盛な需要を背景に伸長しましたが、エッセンシャルケミカル事業での水島製造所の定期修理や在庫受払差によるマイナスが大きく響きました。
| セグメント | 売上高 | 営業利益 | 前年同期比(利益) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| ヘルスケア | 6,641億円 | 835億円 | +30.3% | 12.6% |
| 住宅 | 1兆774億円 | 998億円 | +4.0% | 9.3% |
| マテリアル | 1兆3,062億円 | 683億円 | △14.5% | 5.2% |
| その他 | 267億円 | 39億円 | +33.3% | 14.6% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| ヘルスケア | 6,641億円 | 22% | 835億円 | 12.6% |
| 住宅 | 1.1兆円 | 35% | 998億円 | 9.3% |
| マテリアル | 1.3兆円 | 43% | 683億円 | 5.2% |
財務状況と資本政策
財務状態は、総資産が前期末比で1,227億円増加し、4兆1,379億円となりました。円安による為替換算調整や棚卸資産の増加が主な要因です。一方で、有利子負債は前期比で1,899億円減少の9,675億円まで圧縮され、自己資本比率は前期の46.3%から50.5%へと大幅に改善しました。
配当については、当期の年間配当を前期から4円増配の42円としました(配当性向35.9%)。次期(2027年3月期)についても、業績の成長を見込み、さらに2円増配の年間44円とする計画を公表しています。成長投資を継続しながらも、株主への還元姿勢を強めています。
戦略トピック:事業構造改革とポートフォリオ転換
当期、旭化成は経営資源の選択と集中に向けた極めて重要な判断を次々と下しました。まず、血液浄化事業を投資ファンドのインテグラルへ譲渡し、診断薬事業を長瀬産業へ売却することを決定しました。さらに、鉛蓄電池用セパレータ事業(Daramic)の譲渡も実行しています。
これらの動きは、同社が掲げる「ベストオーナー」の考えに基づいています。自社で保有し続けるよりも、他社のもとで事業を展開する方が価値最大化につながると判断した事業を切り離す一方で、2026年4月にはドイツの創薬企業Aicuris社の買収を完了させるなど、「移植・免疫・腎臓」領域を中心としたヘルスケア分野への投資を加速させています。マテリアル事業においても、2030年度を目途に水島製造所の汎用樹脂(スチレンモノマー等)の生産を終了することを決定し、高付加価値な特殊化学品へのシフトを明確にしました。
リスクと課題
会社側は今後のリスク要因として以下の点を挙げています。
- 海外住宅市場の不透明感: 北米における金利高止まりが続く場合、住宅需要の回復が遅れるリスクがあります。
- 素材市況とエネルギー価格: 石油化学製品の価格差(スプレッド)の悪化や、原材料価格の上昇がマテリアルセグメントの利益を圧迫する懸念があります。
- 買収事業の統合プロセス: 立て続けに実施した大型M&Aのシナジー創出や、のれん償却費の負担が重荷となる可能性があります。
- 構造改革に伴う一時費用: 事業撤去や設備撤去に伴う「事業構造改善費用」の計上が今後も続く見通しです。
旭化成の今期決算は、数字上の「増収増益」以上に、「会社を造り変える」という強い意志が感じられる内容でした。かつての総合化学メーカーから、医薬と住宅を収益の柱とするライフサイエンス・住生活企業への変貌が最終局面に差し掛かっています。
注目すべきは、赤字ではない事業(セパレータや血液浄化など)であっても、将来の成長性が自社の戦略と合致しなければ売却するという徹底した「ベストオーナー」戦略です。これによりバランスシートが筋肉質になり、自己資本比率が50%の大台に乗ったことは、投資家から高く評価されるポイントでしょう。
懸念点は、マテリアル事業の収益力回復です。定期修理などの一過性要因を除いても、コモディティ化学品の収益性は低迷しており、2030年に向けた構造改革がスケジュール通りに進むか、そしてAicurisなどの新規買収案件が早期に利益貢献できるかが、今後の株価と成長の鍵を握ります。
