三菱ケミカルG・2026年3月期Q3、純利益77%増の1,054億円——製薬売却益寄与も、コークス撤退で通期予想を下方修正
売上高
2.7兆円
-8.2%
通期予想
3.7兆円
営業利益
1,133億円
-22.2%
通期予想
700億円
純利益
1,054億円
+77.6%
通期予想
470億円
営業利益率
4.1%
三菱ケミカルグループが12日に発表した2026年3月期第3四半期決算は、親会社の所有者に帰属する四半期利益が前年同期比 77.6%増 の 1,054億円 となりました。これは連結子会社であった旧田辺三菱製薬の株式譲渡に伴う利益を 「非継続事業」 として計上したことが主因です。一方で、継続事業の収益性はMMA市況の低迷などで伸び悩み、さらに コークス事業からの撤退決定 に伴う巨額の損失計上を見込むことから、通期の営業利益および純利益の予想を大幅に下方修正しました。

業績のポイント
当第3四半期累計期間の売上収益は、前年同期比 8.2%減 の 2兆7,373億円 となりました。これは、製薬事業を非継続事業に分類した影響に加え、MMA(メタクリル酸メチル)モノマーの市況下落や、EV向け部材の需要減退が響いた結果です。本業の稼ぎ出す力を示すコア営業利益は 1,856億円 (前年比 2.4%減 )と微減にとどまったものの、事業撤退に関連する減損損失などを計上したことで、営業利益は 1,133億円 (同 22.2%減 )へと落ち込みました。
一方で、最終的な純利益が大幅増益となった背景には、2025年7月に完了した 田辺三菱製薬の譲渡 があります。この売却に伴う利益が非継続事業からの利益として 948億円 計上されたことで、全体の利益水準を押し上げました。足元の景況感は、米国や日本で底堅い成長が続いているものの、中国の過剰生産による化学品市況への圧迫が続いており、依然として不透明な経営環境にあります。
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力セグメントの動向は、収益性の改善が進む分野と、市況悪化に苦しむ分野で明暗が分かれました。特に産業ガス事業が収益の柱として安定感を増す一方、MMA事業は歴史的な低迷期に直面しています。
| セグメント名 | 売上収益 | 前年比 | コア営業利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| スペシャリティマテリアルズ | 7,858億円 | △2.4% | 452億円 | +35.2% |
| MMA&デリバティブズ | 2,638億円 | △17.7% | 16億円 | △95.1% |
| ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ | 5,930億円 | △24.4% | △29億円 | (赤字縮小) |
| 産業ガス | 9,923億円 | +2.7% | 1,444億円 | +5.0% |
スペシャリティマテリアルズ は、EV用途の需要減少やトリアセテート繊維の事業譲渡により減収となりました。しかし、半導体製造装置向けのエンジニアリングプラスチックが好調だったほか、コスト削減と価格転嫁が進み、大幅な増益を達成しました。
MMA&デリバティブズ は非常に厳しい状況です。中国メーカーの増産による需給緩和でモノマー市況が下落し、販売数量も減少しました。コア営業利益は前年の329億円から 16億円 まで激減し、セグメント利益率は 0.6% まで低下しています。
産業ガス は、欧米での販売数量減というマイナス要因があったものの、徹底した 価格マネジメント と、オーストラリアやニュージーランドでの積極的なM&Aによる連結効果が寄与し、増収増益を維持しました。
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| スペシャリティマテリアルズ | 7,858億円 | 29% | 452億円 | 5.7% |
| MMA&デリバティブズ | 2,638億円 | 10% | 16億円 | 0.6% |
| ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ | 5,930億円 | 22% | -2,869百万円 | -0.5% |
| 産業ガス | 9,923億円 | 36% | 1,444億円 | 14.6% |
構造改革と戦略トピック:コークス事業からの撤退
三菱ケミカルグループは今決算に合わせ、 コークスおよび炭素材事業からの完全撤退 を発表しました。同事業は中国の過剰生産による市況低迷が長期化しており、自社での収益改善は困難と判断したものです。2027年度下期に生産を停止し、順次販売を終了する予定です。
この決定に伴い、当第3四半期において有形固定資産の減損損失など約 185億円 を計上しました。さらに、第4四半期には設備撤去費用や従業員への支援措置(ネクストステージ支援プログラム)に関連し、約 660億円 の追加損失を見込んでいます。一連の 事業ポートフォリオ改革 は短期的な利益を圧迫しますが、中長期的には資本効率(ROE)の向上と、ボラティリティの高い汎用品事業からの脱却を目指す不退転の決意を示しています。
財務状況と資本政策
総資産は2025年3月末比で 731億円減 の 5兆8,215億円 となりました。製薬事業の譲渡により資産が減少した一方、売却対価の入金により 現金及び現金同等物 は 366,458百万円 (期首比+403億円)と手厚い水準にあります。親会社所有者帰属持分比率は、利益の蓄積により 31.8% (前期末比+2.3ポイント)へ改善しました。
配当については、当初予想通り1株当たり年間 32円 (中間16円、期末16円)を維持する方針です。構造改革による非経常損失で純利益予想は下方修正されたものの、現金収支を伴わない損失が大半であることから、 安定的な配当継続 を優先する経営判断を下しています。
通期見通し
2026年3月期の通期連結業績予想について、売上収益とコア営業利益は据え置いたものの、下利益(営業利益・純利益)を大幅に下方修正しました。コークス事業撤退や早期退職支援など、 構造改革費用を前倒しで計上 することが要因です。
| 項目 | 前回発表予想 | 今回修正予想 | 前期実績(再表示) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3兆6,720億円 | 3兆6,720億円 | 3兆9,476億円 |
| コア営業利益 | 2,500億円 | 2,500億円 | 2,288億円 |
| 営業利益 | 1,760億円 | 700億円 | 1,416億円 |
| 親会社株主当期利益 | 1,250億円 | 470億円 | 450億円 |
営業利益の修正幅は △1,060億円 (前回比60.2%減)と極めて大きいですが、そのほとんどが「コークス撤退」や「早期退職」という 非経常的な要因 です。本業の利益水準であるコア営業利益は前期比で増益を確保する見通しであり、稼ぐ力の底上げが進んでいるかどうかが今後の評価の分かれ目となります。
リスクと課題
- 中国市場の供給過剰リスク: MMAや汎用化学品において、中国メーカーの増産による市況低迷が長期化し、利益率を圧迫する懸念があります。
- 構造改革の実行スピード: コークス事業の撤退や人員削減など、大規模な改革に伴うコストが当初想定を上回るリスクがあります。
- 円高反転の影響: 海外売上比率が高いため、想定以上の円高進行は為替換算を通じて業績の下押し要因となります。
- エネルギー価格の変動: スペインでの在宅医療事業買収など欧州展開を強化する中、現地の電力・燃料価格の高騰がコスト増につながる可能性があります。
今回の決算は、まさに三菱ケミカルGが「膿を出し切り、変革を急ぐ」姿勢が鮮明になった内容といえます。
注目すべきは、過去の象徴的事業であったコークス事業からの撤退と、製薬事業の売却完了という、経営の「選択と集中」が劇的に進んだ点です。額面上の営業利益・純利益の下方修正はショッキングですが、その中身は不採算事業の整理や、筑本学社長が進める組織の筋肉質化(早期退職)に伴う「前向きなコスト」です。投資家は、これらの非経常損失を除いたコア営業利益が着実に伸びているか、そして産業ガスの増益基調が維持されているかに注目すべきでしょう。
懸念点は依然としてMMA事業の低迷です。中国の増産という構造的問題に対し、同社がどのような差別化、あるいはさらなる再編を打ち出すかが、今後の株価と信頼回復の焦点となります。就活生にとっては、古い重厚長大企業のイメージから、高付加価値な素材とガスを軸とした「スペシャリティ企業」へと急速に変貌を遂げている過渡期にあると捉えるのが適切です。
