エーザイ・2026年3月期通期、売上高は過去最高の8,253億円——AD治療剤「レケンビ」急成長も投資先行で営業益18.8%減
売上高
8,254億円
+4.6%
通期予想
8,835億円
営業利益
441億円
-18.8%
通期予想
700億円
純利益
386億円
-17.0%
通期予想
523億円
営業利益率
5.3%
エーザイが発表した2026年3月期の連結決算は、売上収益が前期比 4.6%増 の 8,253億7,800万円 となり、過去最高を更新しました。アルツハイマー病(AD)治療剤「レケンビ」や抗がん剤「レンビマ」などのグローバル主力品が大きく伸長した一方、営業利益は同 18.8%減 の 441億3,800万円 にとどまりました。これは「レケンビ」への戦略的な資源投入や、欧州での構造改革費用、さらには前期に計上した資産譲渡益の反動などが重なったことによる「先行投資型」の減益決算と言えます。
業績のポイント
当期の業績は、主力製品の爆発的な成長と、将来に向けたコスト投下の二面性が顕著に表れました。売上収益は 8,253億7,800万円(前期比 +4.6%)と好調で、特に最注力製品である「レケンビ」の売上高は前期の4億円から 88億円 へと急拡大しています。不眠症治療剤「デエビゴ」も 643億円(同 +19.6%)と国内外で市場浸透が進み、収益の柱として成長しました。
一方で、利益面では苦戦を強いられました。営業利益は 441億3,800万円(前期比 -18.8%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は 385億5,800万円(同 -17.0%)となりました。減益の主な要因は、欧州(EMEA)地域における将来的な収益性向上を目的とした構造改革費用の計上や、「レケンビ」の価値最大化に向けたマーケティング費用の増加です。また、前期に戦略的提携の終結に伴う一過性の利益を計上していたことも、前年比でのマイナス幅を大きく見せる要因となりました。
業績推移(通期)
セグメント別動向
医薬品事業は、すべての地域で増収を確保しました。特にアメリカス地域と中国での「レケンビ」の需要拡大が全体を牽引しています。
| セグメント | 売上収益 | 前期比 | セグメント利益 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 2,292億円 | +6.0% | 730億円 | +1.8% |
| アメリカス | 3,004億円 | +8.0% | 1,744億円 | +10.2% |
| 中国 | 1,307億円 | +13.2% | 593億円 | +3.7% |
| EMEA | 815億円 | +2.7% | 304億円 | △15.4% |
| その他 | 688億円 | +15.6% | 302億円 | +10.5% |
アメリカス医薬品事業は、売上高 3,004億円 と最大の収益源です。「レケンビ」の売上は 446億円(前期比 +70.7%)と急伸し、オンコロジー領域の主力「レンビマ」も 2,372億円 と堅調を維持しました。日本医薬品事業では、「レケンビ」が 244億円 と前年からほぼ倍増したほか、ヤヌスキナーゼ阻害剤「ジセレカ」などの新製品がジェネリック品の台頭による減収影響を補いました。
特筆すべきはEMEA(欧州・中東等)事業です。売上は微増したものの、将来に向けた抜本的な組織・プロセス見直し(構造改革)に伴う費用が発生したことで、セグメント利益は 304億円(同 -15.4%)と大きく落ち込みました。これは、より効率的な運営体制へ移行するための「痛み」を伴う判断であったと説明されています。
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本医薬品事業 | 2,292億円 | 28% | 730億円 | 31.8% |
| アメリカス医薬品事業 | 3,004億円 | 36% | 1,744億円 | 58.0% |
| 中国医薬品事業 | 1,307億円 | 16% | 593億円 | 45.4% |
| EMEA医薬品事業 | 815億円 | 10% | 304億円 | 37.3% |
財務状況と資本政策
当期末の総資産は 1兆4,491億円 となり、前期末比で 626億円 増加しました。主な要因は「レケンビ」の生産拡大に伴う棚卸資産(在庫)の積み増しや、円安進行による海外子会社の資産評価額の上昇です。自己資本比率は 62.0% と、前期の60.7%からさらに改善し、強固な財務基盤を維持しています。
株主還元については、年間配当160円(中間80円・期末80円)を維持しました。当期純利益の減少により連結配当性向は 117.0% と100%を超えましたが、会社側は「DOE(親会社所有者帰属持分配当率) 5.2%」という安定的な還元指標を重視し、株主への還元姿勢を堅持しています。キャッシュフロー面では、営業活動により 613億円 の収入を得る一方、新会社エコナビスタの買収などの投資活動に 418億円 を投じ、成長投資と株主還元のバランスを意識した運営となっています。
リスクと課題
エーザイが直面している主な課題とリスクは以下の通りです。
- レンビマの独占期間終了への備え: 最大の稼ぎ頭である「レンビマ」は米国で2030年に独占期間が終了する見込みであり、それまでに「レケンビ」を軸とした次世代の収益柱を確立する必要があります。
- 新薬開発と承認の不確実性: 開発パイプラインにある「E2814」などの重要プロジェクトが期待通りの結果を出せない場合、中長期的な成長シナリオに影響を及ぼすリスクがあります。
- 為替および地政学リスク: 売上高の海外比率が非常に高いため、為替変動の影響を強く受けます。また、主要市場である中国や米国における薬価抑制策や関税政策の変化は、直接的な収益圧迫要因となります。
- 競争環境の激化: アルツハイマー病治療薬や抗がん剤市場では競合他社による新薬投入が相次いでおり、シェア維持のための販促費増大が利益率を低下させる懸念があります。
通期見通し
2027年3月期の通期予想では、営業利益が前期比58.6%増の700億円とV字回復を見込んでいます。これは「レケンビ」が全世界で 1,435億円(前期比 +63.1%)と、いよいよ本格的な普及期に入ることを想定したものです。
| 項目 | 2025年3月期実績 | 2026年3月期予想 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 8,253億円 | 8,835億円 | +7.0% |
| 営業利益 | 441億円 | 700億円 | +58.6% |
| 親会社帰属純利益 | 385億円 | 523億円 | +35.6% |
次期は「レケンビ」の皮下注製剤の承認申請や、中国・欧州でのさらなる市場拡大が鍵を握ります。研究開発費は 1,640億円 と引き続き高水準な投資を継続しますが、売上収益の拡大と欧州での構造改革によるコスト削減効果が発現することで、大幅な増益を達成する計画です。配当についても、引き続き 年間160円 を予定しており、安定配当の継続を重視する姿勢を明確にしています。
戦略トピック:エコナビスタ社の完全子会社化
エーザイは当期、SaaS型高齢者見守りサービスを展開するエコナビスタ株式会社を完全子会社化しました。これは単に「薬を作る会社」から、診断・予防・介護までを包括的にサポートする「hhceco(hhc理念+エコシステム)」企業への脱皮を象徴する動きです。
取得対価は 155億円 で、のれんとして 95億円 を計上しました。この買収により、認知症の早期検知や、デジタル技術を活用したケアの質向上を図るソリューションの提供を目指します。就職活動中の学生にとっても、同社が製薬の枠を超え、ITやデータサイエンスを活用したヘルスケアプラットフォームの構築に本腰を入れている点は注目すべき変化と言えます。
エーザイの今回の決算は、まさに「未来を買うための苦境」と言える内容です。売上高が過去最高を更新しているにもかかわらず、営業利益が2割近く減ったのは、AD治療薬「レケンビ」という歴史的な新薬を世界に定着させるための『生みの苦しみ』の最中にいるためです。
投資家が注目すべきは、次期予想における「レケンビ」の売上目標 1,435億円 です。これが達成できれば、投資フェーズから回収フェーズへと大きく舵が切られます。また、配当性向が100%を超えても160円を維持したことは、経営陣の「レケンビの成功」に対する強い自信の表れとも読み取れます。
就職活動生にとっては、同社が単なる「薬売り」ではなく、エコナビスタの買収に見られるようにデジタル・プラットフォーム企業としての側面を強めている点が非常に興味深いポイントでしょう。MR(医薬情報担当者)の役割も、単なる製品説明から、デジタルを駆使した治療パスウェイの改善提案へと高度化していくことが予想されます。
