第一三共・2026年3月期通期、売上高2.1兆円で過去最高——「エンハーツ」好調でコア利益15%増、ヘルスケア事業売却し癌領域へ集中
売上高
2.1兆円
+12.6%
通期予想
2.3兆円
営業利益
2,291億円
-31.0%
通期予想
3,150億円
純利益
2,599億円
-12.1%
通期予想
2,600億円
営業利益率
10.8%
第一三共が発表した2026年3月期の連結決算(IFRS)は、売上収益が前期比 12.6%増 の 2兆1,230億円 となり、初めて2兆円の大台を突破して過去最高を更新しました。主力のがん治療薬「エンハーツ」のグローバルでの伸長や円安が寄与し、実質的な稼ぐ力を示すコア営業利益も 15.1%増 の 3,599億円 と好調に推移しています。一方、製造委託先への損失補償といった一過性の費用を計上したことで、営業利益は前期比 31.0%減 の 2,290億円 となりましたが、次期の年間配当は100円への大幅増配を計画するなど、強気な成長投資と株主還元姿勢を鮮明にしています。
第一三共 2026年3月期 通期決算
さくら × けんじ の対話形式解説
業績のポイント
当期の売上収益は 2兆1,230億円 (前期比 +12.6% )と、主力製品の爆発的な成長により過去最高を記録しました。特に抗がん剤「エンハーツ」や、アストラゼネカと共同開発する「ダトロウェイ」の売上寄与が大きく、円安による為替影響( +218億円 )も追い風となりました。
本業の収益力を示すコア営業利益は 3,599億円 (前期比 +15.1% )と増益を確保しましたが、会計上の営業利益は 2,291億円 (前期比 -31.0% )と大きく沈みました。この要因は、製造委託先への損失補償等の一過性費用(1,529億円)を計上したことにあります。ただし、これらは一時的な要因であり、親会社株主に帰属する当期利益も 2,598億円 (前期比 -12.1% )に踏みとどまりました。
| 指標 | 2025年3月期実績 | 2026年3月期実績 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆8,862億円 | 2兆1,230億円 | +12.6% |
| コア営業利益 | 3,128億円 | 3,599億円 | +15.1% |
| 営業利益 | 3,319億円 | 2,290億円 | △31.0% |
| 当期利益 | 2,957億円 | 2,598億円 | △12.1% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
第一三共は「医薬事業」の単一セグメントですが、ユニット別の売上収益では「オンコロジー(がん領域)」の爆発的な成長が鮮明になっています。欧米を中心に「エンハーツ」の市場浸透が進み、現地通貨ベースでも高い成長を維持しました。
オンコロジービジネスユニットは、売上収益 6,088億円 (前期比 +31.3% )と、グループ全体の成長を牽引しました。主力薬「エンハーツ」の適応拡大に加え、新薬「ダトロウェイ」の売上寄与が本格化しています。特に米国での販売が好調で、現地通貨ベースでは 32.8%増 と、競合他社を圧倒する成長スピードを見せています。
ジャパンビジネスユニットは、売上収益 4,858億円 (前期比 +1.9% )と堅調でした。ワクチン事業や、疼痛治療剤「タリージェ」、抗凝固剤「リクシアナ」などが寄与しています。一方、米国子会社のアメリカンリージェントユニットは、主力品の競合激化により売上収益 1,822億円 (前期比 -16.1% )と苦戦を強いられました。
| ユニット名 | 売上収益 | 前期比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| オンコロジー | 6,088億円 | +31.3% | エンハーツ・ダトロウェイが牽引 |
| ジャパン | 4,858億円 | +1.9% | リクシアナ、タリージェ等が貢献 |
| EUスペシャルティ | 2,766億円 | +16.5% | がん製品を除く欧州販売 |
| アメリカンリージェント | 1,822億円 | △16.1% | 競合品の影響で減収 |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| オンコロジー | 6,088億円 | 29% | — | — |
| ジャパン | 4,858億円 | 23% | — | — |
| アメリカンリージェント | 1,822億円 | 9% | — | — |
財務状況と資本政策
当期末の総資産は、棚卸資産や繰延税金資産の増加により前期末から 5,493億円 増加し、 4兆54億円 となりました。自己資本比率は 41.5% (前期末 47.0% )へと低下しましたが、これは成長投資に伴う負債の増加や、積極的な株主還元が要因です。
株主還元については、「累進配当」の導入を新たに決定しました。当期の配当は前期から18円増配の 78円 とし、さらに次期(2027年3月期)は 100円 への大幅増配を予想しています。また、当期中に 918億円 の自己株買いを実施したほか、2026年6月には発行済株式の 1.66% に相当する自己株式の消却を予定しており、総還元性向を意識した強力な還元策を打ち出しています。
戦略トピック:ヘルスケア事業の売却と「5DXd ADC」への集中
経営判断における最大のトピックは、完全子会社である第一三共ヘルスケアの売却です。サントリーホールディングスに対し、約 2,465億円 (概算)で譲渡することを決定しました。「ルル」や「ロキソニン」などの有力ブランドを持つ同事業を手放すことで、経営リソースを成長性の高い「がん領域」へ完全にシフトさせる姿勢を明確にしています。
今後は独自技術である「DXd ADC」プラットフォームを用いた5つの主力製品(5DXd ADCs)の価値最大化に注力します。2030年度には売上収益 3兆円以上 、営業利益 6,000億円以上 を目指す新中期経営計画を策定しており、グローバルトップ5のオンコロジー企業への飛躍を狙います。
通期見通し
2027年3月期の通期予想では、売上収益 2兆2,800億円 (前期比 +7.4% )を見込みます。ヘルスケア事業の売却による収益押し下げ要因はあるものの、がん領域の継続的な成長でカバーする計画です。また、次期よりコア営業利益の定義を変更し、製品に係る無形資産の償却費を除外することで、事業の本質的な収益性をより明確に示す方針です。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆1,230億円 | 2兆2,800億円 | +7.4% |
| 営業利益 | 2,290億円 | 3,150億円 | +37.5% |
| 親会社株主利益 | 2,598億円 | 2,600億円 | +0.0% |
| 年間配当 | 78円 | 100円 | +28.2% |
リスクと課題
同社が直面する主なリスクは以下の通りです。
- 臨床開発リスク: 主力ADC製品の適応拡大や、後続パイプラインの治験結果が計画通り進まない可能性。
- 知的財産リスク: ADC技術を巡る他社との特許紛争の長期化や、それに伴う多額の費用発生。
- 製造供給リスク: 急増する需要に対し、バイオ医薬品の安定的な製造体制を維持できるかどうかの課題。
- 薬価引き下げ影響: 日本国内および米国における薬価抑制策の強化が利益率に与える影響。
第一三共の今回の決算は、まさに「選択と集中」を象徴する内容です。大衆薬(ヘルスケア)事業をサントリーへ売却するという決断は、同社を日本の製薬大手から「世界のオンコロジー(がん)トッププレイヤー」へと変貌させる決定打となるでしょう。
- 評価ポイント: 営業利益ベースでは一過性費用で減益に見えますが、エンハーツの売上成長率は依然として凄まじく、キャッシュ創出力は極めて高いです。新定義のコア利益や累進配当の導入は、投資家に対して「一時的な会計数値に惑わされず、成長の継続性を見てほしい」という強いメッセージと受け取れます。
- 懸念点: 特定のADC技術(DXd)への依存度が高まっており、特許係争や他社の後発品、あるいは代替技術が登場した際のリスクは無視できません。ヘルスケア売却で安定収益源が減る分、開発パイプラインの成否が株価に与える感応度はさらに高まるはずです。
投資家や就活生にとっては、同社がもはや「昔ながらの製薬会社」ではなく、高度なバイオテクノロジーに特化したハイリスク・ハイリターンの「グローバル・バイオテック企業」に近い性質に変化したことを認識すべき決算といえます。
