エーザイ・2026年3月期Q3、売上高3.1%増の6,199億円——「レカンビ」倍増も前期の一時金剥落で営業微減益
売上高
6,200億円
+3.1%
通期予想
7,900億円
営業利益
545億円
-1.7%
通期予想
545億円
純利益
418億円
-8.1%
通期予想
415億円
営業利益率
8.8%
エーザイが9日に発表した2026年3月期第3四半期累計決算は、売上収益が前年同期比 3.1%増 の 6,199億円 、営業利益は 1.7%減 の 544億円 となった。アルツハイマー病治療剤「レカンビ」や抗がん剤「レンビマ」が世界的に伸長し、主力製品の成長が業績を牽引した。一方で、前年同期に計上した製品権利譲渡に伴う一時金や戦略的提携の終結益が剥落したことで、増収ながらも営業利益は 前年並みの水準 での着地となった。

業績のポイント
当第3四半期の連結累計期間は、主力製品であるアルツハイマー病(AD)治療剤「レカンビ」と抗がん剤「レンビマ」が成長を加速させた。特にレカンビの売上収益は 618億円 と前年同期(295億円)から 109.2%増 となり、普及が順調に進んでいることを示した。抗がん剤「レンビマ」も 2,581億円 (前年比 +4.0% )と堅調に推移し、医薬品事業全体では 6,101億円 (同 +7.2% )と力強い増収を確保している。
利益面では、売上総利益が 4,807億円 (前年比 +1.6% )に増加したものの、営業利益は 544億円 (同 1.7%減 )と微減になった。これは「レカンビ」の普及に向けた積極的なマーケティング投資により、販売費及び一般管理費が 3,157億円 (同 +4.7% )に膨らんだことが要因だ。また、前年に発生した戦略的提携の終結に伴う一過性の収益(約59億円)や販売権譲渡益などの「その他の収益」が 47億円 (同 59.1%減 )へ大幅に減少したことも利益を押し下げる要因となった。
| 項目(億円) | 前年同期 | 当期実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6,012 | 6,199 | +3.1% |
| 営業利益 | 554 | 545 | △1.7% |
| 税引前利益 | 611 | 589 | △3.5% |
| 四半期利益 | 455 | 418 | △8.1% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
日本医薬品事業は、売上収益が 1,756億円 (前年比 5.1%増 )、セグメント利益は 585億円 (同 0.3%減 )となった。「レカンビ」が国内で 179億円 (同 115.4%増 )と急成長したほか、不眠症治療剤「デエビゴ」も 352億円 (同 4.1%増 )と順調に推移した。販促費の投入が利益を圧迫したが、新製品の浸透により国内基盤は強化されている。
アメリカス医薬品事業は、売上収益が 2,230億円 (前年比 6.6%増 )、セグメント利益は 1,334億円 (同 10.2%増 )と大幅な増益を達成した。世界最大の市場である米国で「レンビマ」が 1,786億円 (同 1.8%増 )と安定した収益源となっている。さらに、米国での「レカンビ」売上は 312億円 (同 71.8%増 )に達し、収益構造の転換が着実に進んでいる。
中国医薬品事業は、売上収益が 998億円 (前年比 12.7%増 )、セグメント利益は 474億円 (同 7.6%増 )と好調な回復を見せた。主要な抗がん剤に加え、2025年8月に新発売した「デエビゴ」や需要が拡大している「レカンビ」が寄与している。現地での積極的な製品投入が功を奏し、アジア圏全体での成長を牽引する存在となっている。
| リージョン別売上高(億円) | 実績 | 前年同期比 | 主な牽引要因 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 1,756 | +5.1% | レカンビ、ジセレカ |
| アメリカス | 2,230 | +6.6% | レカンビ、レンビマ |
| 中国 | 998 | +12.7% | レカンビ、デエビゴ |
| EMEA | 603 | +1.0% | レンビマ/Kisplyx |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本医薬品事業 | 1,756億円 | 28% | 585億円 | 33.3% |
| アメリカス医薬品事業 | 2,230億円 | 36% | 1,334億円 | 59.8% |
| 中国医薬品事業 | 998億円 | 16% | 474億円 | 47.5% |
| EMEA医薬品事業 | 603億円 | 10% | 269億円 | 44.6% |
| イーストアジア・グローバルサウス医薬品事業 | 514億円 | 8% | 242億円 | 47.0% |
財務状況と資本政策
2025年12月末時点の総資産は 1兆4,862億円 となり、前期末から 997億円 増加した。為替の影響による海外子会社の資産評価額の増加に加え、売上拡大に伴う売掛金の増加や、「レカンビ」の本格的な生産開始に向けた棚卸資産の積み増しが主な要因である。自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)は 59.9% となり、依然として 強固な財務基盤 を維持している。
キャッシュフローについては、営業活動により 572億円 の収入を得た。前年同期の 8億円 から大幅に改善しており、運転資本の効率化や、退職給付信託の返還に伴う現金収入が寄与した。一方、財務活動では配当金の支払いや借入金の返済により 120億円 を支出している。
配当政策については、当期の年間配当を前期と同額の 160円 (中間80円、期末80円予想)とする方針を維持した。同社は株主還元について、安定的な配当を継続する方針を掲げている。主力製品への先行投資を優先しつつも、資本効率を重視した還元姿勢 を示している。
研究開発と戦略トピック
研究開発費は 1,147億円 (前年比 8.5%減 )となった。開発テーマの厳選や費用効率化を進める一方で、「レカンビ」の次世代製剤である皮下注製剤の開発や、タウ標的薬「E2814」といったAD領域の重要プロジェクトには重点的な資源投入を継続している。研究開発の効率化と次なる成長の柱の育成を両立させる姿勢が鮮明だ。
戦略面では、2025年6月に高齢者見守りサービスを展開する エコナビスタ株式会社を完全子会社化 したことが特筆される。これは薬剤提供にとどまらず、MCI(軽度認知障害)や認知症の予防・診断・介護を包括的にサポートする「認知症プラットフォーム」の構築を目指す同社の hhc(ヒューマン・ヘルスケア)戦略 の一環である。デジタル技術を活用したソリューション事業を強化し、医薬品との相乗効果を狙う。
リスクと課題
同社の経営成績を左右する主なリスクとして、以下の要因が挙げられている。
- 薬価改定の影響: 国内外での厳しい薬価抑制政策により、既存品の収益が圧迫されるリスクがある。
- 為替変動リスク: 海外売上比率が高いため、円高局面では外貨建て収益の円換算額が減少する懸念がある。
- 競合品との競争: 他社によるアルツハイマー病治療薬や抗がん剤の後発品・競合品の登場が、シェアや利益率に影響を及ぼす可能性がある。
- 研究開発の不確実性: 創薬プロセスにおける臨床試験の中止や承認遅延は、将来の成長シナリオに大きな不確実性をもたらす。
通期見通し
2026年3月期の通期連結業績予想について、同社は前回発表の数値を据え置いた。売上収益は過去最高の 7,900億円 を見込んでおり、レカンビのさらなる普及とレンビマの安定成長を前提としている。営業利益についても 545億円 とわずかながら増益を確保する計画である。下期に向けてレカンビの海外展開地域が拡大することや、新製品の寄与が利益を下支えする見通しだ。
| 項目(億円) | 前回予想 | 今回修正 | 前期実績 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7,900 | 7,900 | 7,894 | +0.1% |
| 営業利益 | 545 | 545 | 544 | +0.2% |
| 親会社所有者帰属当期利益 | 415 | 415 | 464 | △10.6% |
エーザイの決算は、数字上の営業微減益以上に「主力品の質的な成長」が際立つ内容でした。特にAD治療薬「レカンビ」の売上倍増は、市場の懸念を払拭し、同社が目指す「認知症領域の世界的リーダー」への軌道に乗っていることを証明しています。
注目すべきは、単なる薬売りから脱却しようとする「エコナビスタの買収」です。医薬品とSaaS(見守りサービス)を組み合わせるモデルは、従来の製薬企業のビジネスモデルを塗り替える挑戦であり、投資家にとっては中長期的な「脱・パテントクリフ(特許の崖)」対策として評価の分かれ目になるでしょう。
懸念点は、やはり販売促進費の重さです。レカンビの普及には膨大な教育・啓発コストがかかるため、本格的な利益貢献フェーズに入るまでの「忍耐の時期」がいつまで続くかが今後の焦点となります。就活生にとっては、デジタルと医療を融合させる先駆的な環境として、非常に魅力的なフェーズにある企業と言えます。
