IHI・2026年3月期、純利益42.8%増の1,609億円——航空エンジン需要が牽引、事業売却でポートフォリオ改革加速
売上高
1.6兆円
+1.0%
通期予想
1.8兆円
営業利益
1,655億円
+15.3%
通期予想
2,400億円
純利益
1,610億円
+42.8%
通期予想
1,650億円
営業利益率
10.1%
IHIが8日に発表した2026年3月期の連結決算(IFRS)は、親会社の所有者に帰属する当期利益が前年比 42.8%増 の 1,609億円 と大幅な増益を記録した。民間向け航空エンジンのアフターマーケット需要や防衛事業の拡大が収益を支えたほか、不採算事業の譲渡や不動産売却といった事業ポートフォリオ改革が利益を大きく押し上げた。1株につき7株の株式分割を実施するなど、資本政策面でも積極的な姿勢を示しており、構造改革から成長ステージへの移行を鮮明にしている。
IHI 2026年3月期 通期決算
さくら × けんじ の対話形式解説
業績のポイント
当期の売上収益は前年比 1.0%増 の 1兆6,434億円、営業利益は 15.3%増 の 1,655億円 となった。防衛事業や民間向け航空エンジンの拡大に加え、車両過給機での需要増と販売価格の適正化が寄与した。一方で、中核事業の譲渡に伴う減収要因もあり、売上高の伸びは小幅に留まっている。
利益面では、資源・エネルギー・環境事業における一部海外プロジェクトの採算悪化や、航空エンジンの整備費用増加という押し下げ要因があった。しかし、原子力の採算向上に加え、運搬機械事業や投資不動産の譲渡益を計上した(前年比 +220億円)ことが大きく貢献し、過去最高水準の利益を確保した。税引前利益も為替の円安効果や持分法投資利益の増加により、33.9%増 の 1,854億円 と大幅に伸長している。
| 指標 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆6,268億円 | 1兆6,434億円 | +1.0% |
| 営業利益 | 1,435億円 | 1,655億円 | +15.3% |
| 税引前利益 | 1,384億円 | 1,854億円 | +33.9% |
| 親会社株主帰属利益 | 1,127億円 | 1,609億円 | +42.8% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力である航空・宇宙・防衛セグメントは、売上収益が 6,517億円(前年比 +17.3%)と大きく伸長した。旅客需要の回復を背景に、民間向けエンジンのスペアパーツ販売や修理などのアフターマーケット事業が好調に推移した。防衛事業も地政学的リスクの高まりを受け、大型案件の受注対応が加速している。ただし、営業利益はエンジン検査プログラムの費用負担等により、1,124億円(同 -8.4%)と減益となった。
産業システム・汎用機械セグメントは、売上収益 4,505億円(同 -7.1%)に対し、営業利益は 307億円(同 +185.0%)と利益率が大幅に改善した。運搬機械事業の譲渡益に加え、前年度に計上した車両過給機事業の構造改革費用の反動が利益を押し上げた格好だ。脱炭素化ニーズを捉えたライフサイクルビジネスの拡大も利益貢献を始めている。
資源・エネルギー・環境セグメントは苦戦が続き、営業利益は 59億円(同 -63.1%)に沈んだ。海外事業の一部で採算が悪化したことが響いたが、国内の原子力関連では再稼働や除染・廃炉需要を確実に取り込み、安定した収益基盤となっている。
| セグメント | 売上収益 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 航空・宇宙・防衛 | 6,517億円 | +17.3% | 1,124億円 | △8.4% |
| 産業システム・汎用機械 | 4,505億円 | △7.1% | 307億円 | +185.0% |
| 資源・エネルギー・環境 | 3,767億円 | △8.4% | 59億円 | △63.1% |
| 社会基盤 | 1,319億円 | △9.6% | 37億円 | 黒字転換 |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 航空・宇宙・防衛 | 6,517億円 | 40% | 1,124億円 | 17.3% |
| 産業システム・汎用機械 | 4,505億円 | 27% | 308億円 | 6.8% |
| 資源・エネルギー・環境 | 3,767億円 | 23% | 60億円 | 1.6% |
| 社会基盤 | 1,319億円 | 8% | 37億円 | 2.8% |
戦略トピック:ポートフォリオ改革の完遂へ
当期は「グループ経営方針2023」に基づき、大規模な事業再編を断行した。運搬機械事業、汎用ボイラ事業、さらには気象観測を担う明星電気などの譲渡を完了した。特筆すべきは、造船大手のジャパン マリンユナイテッド(JMU)の持ち分一部譲渡であり、議決権比率を35%から 20% へ引き下げ、経営資源を成長領域へ集中させる姿勢を明確にした。
さらに、次期戦闘機(GCAP)用エンジンの共同開発や、アンモニアガスタービンの実用化に向けた投資など、次世代の収益源育成に注力している。物流・産業システム事業についても、2027年4月に株式会社豊田自動織機へ譲渡することを決定しており、「選択と集中」による筋肉質な経営体質への転換が急ピッチで進んでいる。
財務状況と資本政策
総資産は前年末比1,881億円増の 2兆4,285億円 となった。営業債権の増加などが主因だが、自己資本の蓄積により親会社所有者帰属持分比率は 26.9%(前年末は21.5%)と大幅に改善し、財務基盤の健全化が進んだ。キャッシュ・フロー面では、営業活動により 1,213億円 のキャッシュを創出したが、不採算案件への対応や在庫積み増しにより前年比では減少している。
株主還元については、2025年10月1日付で実施した 1対7の株式分割 を経て、2027年3月期の年間配当は 23円(分割前換算で161円相当)を予想している。これは前期の実績(分割前換算140円)から実質的な増配となる。成長投資と株主還元のバランスを重視し、資本効率の向上を目指す方針だ。
通期見通し
2027年3月期の業績予想は、売上収益 1兆8,300億円(前期比 +11.4%)、営業利益 2,400億円(同 +45.0%)と大幅な増収増益を見込む。民間向け航空エンジンの需要拡大が続くほか、これまでの構造改革の効果がフルに寄与する見通しだ。ただし、為替レートの変動や地政学的リスクによるサプライチェーンの混乱には引き続き警戒が必要としている。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆6,434億円 | 1兆8,300億円 | +11.4% |
| 営業利益 | 1,655億円 | 2,400億円 | +45.0% |
| 親会社株主帰属利益 | 1,609億円 | 1,650億円 | +2.5% |
リスクと課題
同社が直面する主なリスクは以下の通りである。
- 航空エンジンの不具合対応: 出荷済み「PW1100G-JM」エンジンの追加検査プログラムに伴う費用発生や、整備能力の確保が引き続き課題となっている。
- 外部環境の不確実性: ウクライナや中東情勢の長期化によるエネルギー価格・原材料費の高騰、および中国経済の減速による影響。
- サプライチェーンのリスク: 地政学的リスクに伴う物流網の混乱や、特定の国による輸出規制(レアアース等)が事業継続に与える影響。
- 労働力不足: 国内建設分野や製造現場における人手不足。これに対し、DXの推進や自動化技術の導入による生産性向上が急務となっている。
IHIの今回の決算は、過去数年にわたる「不採算事業の整理」という痛みを伴う構造改革が、ようやく実を結び始めた印象を受けます。特にJMUの持ち分引き下げや物流事業の譲渡決定など、これまでの「重厚長大」なイメージから、航空・防衛・クリーンエネルギーという高付加価値領域へ軸足を移す「脱・総合重工」の姿勢が鮮明です。
投資家にとっての注目点は、1対7という大胆な株式分割と、それに伴う実質的な増配です。個人投資家の参入障壁を下げ、資本効率を重視する経営姿勢は高く評価されるでしょう。
一方で、航空エンジン「PW1100G-JM」の検査問題は依然として不透明な要素を含んでおり、アフターマーケットでの収益性がこのコストをどれだけカバーできるかが、今後の株価を左右する焦点となります。就活生にとっては、同社が提唱する「成長ステージ」において、次期戦闘機やアンモニア燃料といった国家レベルの巨大プロジェクトに関われる点が大きな魅力となるはずです。
