トレンドマイクロ・2025年12月期通期、営業利益20.1%増の577億円——コスト抑制とAI基盤が寄与、50億円の自社株買い発表
売上高
2,760億円
+1.2%
通期予想
3,015億円
営業利益
578億円
+20.1%
通期予想
564億円
純利益
345億円
+0.5%
通期予想
366億円
営業利益率
20.9%
トレンドマイクロの2025年12月期連結決算は、売上高が前期比1.2%増の2,759億円、営業利益が同20.1%増の577億円と増収増益を達成した。人件費や外注費の抑制に加え、AIを活用したセキュリティ基盤「Trend Vision One」が法人向けに伸長したことが利益を押し上げた。一方、米国市場での投資抑制などの懸念材料も残る中、同社は期末配当の増額と50億円を上限とする自社株買いを新たに決定し、株主還元姿勢を鮮明にしている。

業績のポイント
2025年12月期は、売上高が前期比1.2%増の2,759億8,400万円、営業利益は同20.1%増の577億7,700万円と、効率的な経営が利益率の改善に直結した。特に、法人向けビジネスにおいてAI搭載の統合プラットフォーム「Vision One」が成長を牽引し、サイバー攻撃の高度化に対応する需要を確実に取り込んだ。一方で、親会社株主に帰属する当期純利益は同0.5%増の345億2,300万円と微増に留まった。これは、前期のような多額の為替差益が発生しなかったことや、退職給付費用の計上などが影響したためである。
| 項目 | 2024年12月期実績 | 2025年12月期実績 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,726億円 | 2,759億円 | +1.2% |
| 営業利益 | 481億円 | 577億円 | +20.1% |
| 経常利益 | 528億円 | 539億円 | +2.2% |
| 当期純利益 | 343億円 | 345億円 | +0.5% |
業績推移(通期)
セグメント別動向
地域別では日本、欧州、アジアが堅調に推移した一方、アメリカズ地域が苦戦を強いられた。日本地域は売上高が前期比2.4%増の878億4,000万円。AI活用の次世代SOC関連セキュリティが法人市場で大きく伸びた一方、個人向けはPC市場の停滞により低調だった。
欧州地域は売上高が前期比4.9%増の614億3,900万円、アジア・パシフィック地域は同2.9%増の715億1,600万円となった。いずれも「Vision One」が成長の柱となり、特に中東や台湾での大型案件が寄与した。一方、アメリカズ地域は売上高が前期比6.2%減の551億8,700万円と落ち込んだ。米国の通商政策への不透明感や、政府効率化省(DOGE)の取り組みによる政府機関の投資抑制、さらに円高の影響が逆風となった。
| 地域 | 売上高 | 前年比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 87,840百万円 | +2.4% | 20,651百万円 | 23.5% |
| アメリカズ | 55,187百万円 | △6.2% | 11,027百万円 | 20.0% |
| 欧州 | 61,439百万円 | +4.9% | 12,334百万円 | 20.1% |
| アジア・パシフィック | 71,516百万円 | +2.9% | 12,982百万円 | 18.2% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 878億円 | 32% | 207億円 | 23.5% |
| アメリカズ | 552億円 | 20% | 110億円 | 20.0% |
| 欧州 | 614億円 | 22% | 123億円 | 20.1% |
| アジア・パシフィック | 715億円 | 26% | 130億円 | 18.2% |
財務状況と資本政策
総資産は前期末比219億円増の4,222億円となった。特に現金及び預金が500億円増加し、2,200億円を超える厚いキャッシュポジションを維持している。営業活動によるキャッシュフローは646億円と前年(467億円)から大きく拡大し、収益性の高さが裏付けられた。
資本政策では、機動的な株主還元を重視する方針を堅持している。2025年12月期の年間配当は前期比1円増の185円(配当性向70.5%)を予定。さらに、2026年2月から3月にかけて、発行済株式総数の約0.92%に相当する120万株、総額50億円を上限とした自社株買いを実施することを決議した。これは保有キャッシュの水準を適正化し、資本効率(ROE)の向上を図る狙いがある。
通期見通し
2026年12月期の通期予想については、売上高が前期比9.2%増の3,015億円と初の3,000億円の大台突破を見込む。営業利益は人件費等のコスト増加を織り込み、同2.4%減の564億円と慎重な見通しを立てている。想定為替レートは1米ドル156円、1ユーロ183円とした。
| 項目 | 2025年12月期実績 | 2026年12月期予想 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,759億円 | 3,015億円 | +9.2% |
| 営業利益 | 577億円 | 56,400百万円 | △2.4% |
| 当期純利益 | 345億円 | 36,600百万円 | +6.0% |
リスクと課題
同社が直面する主なリスクは以下の通りである。
- 米国の政策不確実性: 米国政府効率化省(DOGE)の動き等による、政府機関や関連企業でのセキュリティ投資抑制が継続するリスク。
- 競争激化と単一領域依存: サイバーセキュリティ市場での競争激化に加え、収益の大部分をウイルス対策関連に依存している点。
- AI活用による新たな脅威: 生成AIやディープフェイクを悪用した高度な攻撃の増加に対し、技術革新のスピードで優位性を保てるかどうかが問われる。
- 人材の確保: 専門性の高い技術者の獲得競争が激化しており、人件費の上昇が利益を圧迫する懸念がある。
トレンドマイクロの今回の決算で特筆すべきは、売上高の成長が1.2%と緩やかである一方で、営業利益を20%以上伸ばした「筋肉質な体質改善」です。特に、法人向けの統合プラットフォーム「Trend Vision One」への移行が順調に進んでおり、単なるウイルス対策ソフトベンダーからの脱却をAI活用によって具現化している点が評価できます。
懸念点はアメリカズ地域の不振です。短信内で「政府効率化省(DOGE)」の影響に具体的に言及している点は非常に興味深く、米国の行政改革がITベンダーの収益に直接的な影を落としている実態が浮き彫りになりました。2026年期の予想で営業利益が微減となっているのは、この米国リスクと、さらなる成長のための人材投資・インフラコストを見込んでいるためと考えられます。
投資家目線では、配当性向70%の維持に加え、決算発表と同時に50億円の自社株買いを打ち出すなど、還元への執着が強い点が安心材料です。今後は、米国市場の回復時期と、AIプラットフォームのARR(年間経常収益)の成長速度が焦点となるでしょう。
