ローム・2026年3月期通期、売上高7.3%増の4,811億円で営業黒字化——SiC事業の巨額減損で最終赤字1,584億円
売上高
4,811億円
+7.3%
通期予想
5,100億円
営業利益
109億円
通期予想
300億円
純利益
-158,424百万円
通期予想
290億円
営業利益率
2.3%
半導体大手のロームが発表した2026年3月期通期決算は、売上高が前期比 7.3%増 の 4,811億円 となり、本業の儲けを示す営業利益は 108億円 (前期は400億円の赤字)と 黒字転換 を果たしました。自動車や産業機器向けの需要回復に加え、構造改革による固定費削減が寄与した形です。一方で、BEV市場の成長鈍化を受け、次世代パワー半導体である SiC事業の固定資産を中心に1,936億円もの巨額減損 を計上。親会社株主に帰属する当期純利益は 1,584億円の赤字 (前期は500億円の赤字)となり、赤字幅が大きく拡大しました。
業績のポイント
2026年3月期の連結業績は、売上高が 4,811億4,800万円 (前期比 +7.3% )、営業利益が 108億6,400万円 (前期は400億6,100万円の損失)となりました。営業利益が大幅に改善した背景には、売上の増加に加え、前期に実施した構造改革による固定費削減効果が顕在化したことがあります。また、当期から有形固定資産の減価償却方法を定率法から定額法へ変更したことで、営業利益を 155億円 押し上げる要因となりました。
一方で、最終損益は 1,584億2,400万円の赤字 となり、過去最大の赤字幅を記録しました。これは、期待されていたバッテリー式電気自動車(BEV)市場の成長見通しが従来想定を下回ったことを受け、先行投資を行っていた SiC(炭化ケイ素)事業関連の固定資産について、1,936億円の減損損失を特別損失として計上 したためです。将来の収益性を厳格に見積もった経営判断によるものですが、積極投資が裏目に出た形となりました。
| 項目 | 2025年3月期(実績) | 2026年3月期(実績) | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,484億円 | 4,811億円 | +7.3% |
| 営業利益 | △400億円 | 108億円 | 黒字転換 |
| 経常利益 | △296億円 | 192億円 | 黒字転換 |
| 当期純利益 | △500億円 | △1,584億円 | 赤字拡大 |
業績推移(通期)
セグメント別動向
主力セグメントであるLSI事業は、売上高 2,183億9,000万円 (前期比 +7.1%増 )、セグメント利益 245億3,500万円 (前期は7億円の損失)と V字回復 を遂げました。自動車市場向けでは、ADAS(先進運転支援システム)向けが調整局面となったものの、ボディ向けやxEV向けの電装化需要が伸び、収益を牽引しました。産業機器市場やコンピュータ&ストレージ市場でもサーバー向けを中心に回復傾向が見られました。
半導体素子事業は、売上高 2,052億6,300万円 (前期比 +9.7%増 )と増収を確保しましたが、セグメント損益は 227億400万円の赤字 (前期は458億円の赤字)となりました。SiCパワーデバイスの販売自体はxEV向けに堅調に推移しましたが、上述の 巨額減損損失の影響(1,916億円) がこのセグメントに重くのしかかっています。ただし、キャッシュフローを伴わない一過性の損失を除けば、実態的な収益力は改善傾向にあります。
モジュール事業は、売上高 315億8,900万円 (前期比 3.0%減 )、セグメント利益 35億2,200万円 (前期比 +30.9%増 )でした。事務機向けプリントヘッドの需要は増加したものの、車載用LEDモジュールの減少が響き減収となりました。しかし、高付加価値製品へのシフトとコスト削減が功を奏し、利益面では大幅な増益を達成しています。
| セグメント | 売上高 | セグメント利益 | 売上構成比 |
|---|---|---|---|
| LSI | 2,183億円 | 245億円 | 45.4% |
| 半導体素子 | 2,052億円 | △227億円 | 42.7% |
| モジュール | 315億円 | 35億円 | 6.6% |
| その他 | 259億円 | 41億円 | 5.3% |
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| LSI | 2,184億円 | 45% | 245億円 | 11.2% |
| 半導体素子 | 2,053億円 | 43% | -22,704百万円 | -11.1% |
| モジュール | 316億円 | 7% | 35億円 | 11.2% |
財務状況と資本政策
資産合計は前期末比で1,572億円減少し、 1兆2,835億円 となりました。これは投資有価証券の売却や、SiC事業における多額の減損計上によって固定資産が圧縮されたためです。純資産についても、最終赤字の計上により利益剰余金が減少し、 7,586億円 (前期末は8,896億円)に低下しました。自己資本比率は前期の 61.7% から 59.1% へと低下しましたが、依然として 強固な財務基盤 を維持しています。
配当政策については、厳しい通期決算となったものの、「安定的な利益還元」を重視する方針を堅持しました。2026年3月期の年間配当は前期と同額の 50円 (中間25円、期末25円)を実施。さらに、2027年3月期の配当予想についても 年間50円の維持 を発表しています。連結配当性向の目安は30%としていますが、一時的な赤字要因を考慮し、株主還元を優先する経営判断を下しています。
リスクと課題
ロームが直面する最大の経営課題は、 SiC事業の収益化タイミングの見極め です。世界的なBEV市場の成長鈍化を受け、多額の減損を強いられたことは、先行投資のリスクを浮き彫りにしました。今後は市場環境の変化に柔軟に対応しつつ、設備投資を必要最小限に抑制し、固定費負担をいかにコントロールできるかが焦点となります。
また、外部環境のリスクとして以下の点に言及しています。
- 米国の通商政策や中東情勢などの 地政学リスク に伴う不透明感
- 米国におけるEV優遇措置の縮小や、欧州での内燃機関車規制の見直しによる 電動化トレンドの変調
- データセンター投資拡大に伴うメモリ需給の逼迫が周辺部品に与える影響
これらの不確実性に対応するため、同社は東芝デバイス&ストレージや三菱電機との パワーデバイス事業における経営統合協議 を開始しており、業界再編を通じた競争力の強化を急いでいます。
通期見通し
2027年3月期の業績予想は、売上高 5,100億円 (前期比 +6.0% )、営業利益 300億円 (同 +176.1% )、純利益 290億円 (前期は1,584億円の赤字)と、 大幅な増収増益と最終黒字化 を見込んでいます。減損によって償却負担が軽くなったことに加え、データセンター向けのAIサーバー需要や、回復基調にある産業機器市場が寄与する見通しです。
| 指標 | 2026年3月期(実績) | 2027年3月期(予想) | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,811億円 | 5,100億円 | +6.0% |
| 営業利益 | 108億円 | 300億円 | +176.1% |
| 純利益 | △1,584億円 | 290億円 | 黒字転換 |
※為替レートは1米ドル=153円を前提としています。
今回の決算は、ロームにとって「膿を出し切り、次なる成長へ備えるための転換点」と言える内容です。
注目すべきは、本業の営業利益がしっかり黒字化している点と、 約1,900億円という巨額の減損 をあえてこのタイミングで踏み切った点です。これは、かつてのバラ色のBEV成長シナリオから一歩退き、現実的な市場環境に合わせた「守りの経営」へのシフトを示唆しています。減価償却方法の変更(定率から定額へ)も、車載向けなどの長期的な稼働に合わせた会計処理への適正化と言えます。
投資家にとっての焦点は、 東芝・三菱電機との事業統合協議 です。SiCへの過度な一社投資のリスクが露呈した今、他社とのアライアンスによって投資負担を分散し、シェアを確保する戦略は妥当な判断です。2027年3月期のV字回復予想の達成度が、市場の信頼回復の鍵となるでしょう。
